すると突然、苦笑いを浮かべるのに手間どっている俺の背後から、誰かがすっと近づいてきた。

「いやいやいや。ちょっと!勝手なこと言わないでよー。拓人ってさー、なんていうか…ぜんぜん私の好みじゃないんだよねー」

俺は、唖然として沙耶の顔を見た。

いつもと同じ笑顔…。

だけど、昔と変わらない笑顔…。

そうだ…。

昔から変わらない。

言いたい放題言いながらも、いつもお前はそうやって空気を読んでくれた。

だから俺や露にとっても、沙耶が一緒にいてくれる空間はいつも居心地が良かったんだろう…。

「それに拓人って、露のことずっと好きなんだよ?知ってるでしょ?いっつも一緒にいるじゃん」

そう…。

彼女でもないくせに、お前はいつもそうやって俺の心をピタリと当ててくるんだよな…。

まぁ、あながち沙耶も俺と同じで、露をないがしろにする彼女たちの言いように、我慢できなくなったんだろう。

「でも案外、こいつフラれるかもしれないから、そっとしておいてあげて…あははっ」

憎たらしいまでの高笑いを残し、まるで台風のように教室を出ていった沙耶。

目の前にいる女子たちの表情も、少し唖然ぎみだった。

なんなんだよ、あいつ…。

ほんと…

最高かよ…。

俺を苦しめていたはずの怒りも、知らずのうちにどこかへ消え去っていた。

「ねぇ…やっぱ日向くん、朝倉さんが好きなんだ?」

「え、あ、あぁ…うん…」

しかたない…。

今日はあいつになんか奢ってやるか…。