虜にさせてみて?

初めはよく懐いてくれて、仕事もやりやすかった。

段々と回数をこなす内に、私はにだけ態度を変え、冷たい態度で接してくるようになった。

私が何か気に障る事をしたならば謝る。

「三枝さん、私が気付かない内に貴方に何かしてしまったのなら謝りたい!」

まだ聞こえるであろう距離から、背を向けて歩く彼女に言った。

「ぜんっぜん、分かってないですね。私、誰にでも良い顔する先輩のそーゆー所が大嫌いなんですよ」

誰にでも良い顔をしている訳じゃない。

……けれども、彼女にはそう見えたのかもしれない。

確かに仕事は皆で仲良く協力してやりたかった。それが間違ってると言うのならば、私はこれからどうしたら良いのだろう?

視界に彼女が映らなくなると、お風呂場に向かった。

あんまり考えないようにして綺麗さっぱり、心の闇も洗い流したい。

響に早く会いたい。

やっと落ち着いた泣き腫らした目から、再び涙が溢れる。

いつからこんなにも泣き虫になったのか?

シャワーと共に涙が流れ落ちて、自分自身の弱さを知った。

身支度を済ませて、再び部屋に戻ると響から着信があったみたいだ。

慌ててかけ直すと、響も早めに上がれたようで部屋で待っているとの返答。

急いで向かうと響は帰って来たばかりで、何も身支度はしてなく、制服のままだった。

鍵を開けてくれて、私が入ると背を向けたので、そっと後ろから抱き着く。

「お疲れ様」

「眠れた? 朝、ラウンジに向かってる途中に湊から電話があって、ひよりが倒れたって言うから……」

湊君が知らせてくれたんだ。私は居眠りしてたからね。

「うん、夕方まで寝ちゃった」

「そう、眠れたなら良かった。風呂に入って来るから、離して」

「じゃあ、ただいまのキスして」

私が甘えると、響は何も言わずに唇を重ねた。