虜にさせてみて?

言われるがままに事務所に寄ると、マネージャーが私を見つけて駆け寄って来た。

「大丈夫か? 水野から聞いたぞ。昨日の花火で風邪をひいて体調が悪いらしいな」

「えっ?」

「後輩達を連れての花火、お疲れ様。普段の疲れも残っているんだから、今日は寮に戻ってゆっくり寝なさい。目も虚ろだし、顔色も悪いし、早く行きな。明日、無理な時は連絡くれ」

返事をする間もなく、背中を軽く叩かれて事務所を出された。

花火で風邪をひいたことになっている。私が寝不足だという事を響は知ってたの?

さっき会ったばかりなのに、どうして分かるのかが不思議だけれど、手回しが良すぎる。

敵わないな、もう。

外に出ると陽射しが眩しくて、手を目にかざした。

寮までの道のりをとぼとぼ歩いていると、新しく建設中の寮が気になり、ちょっぴり遠回りする事にした。

今までの寮は老朽化も進んでいるし、オーベルジュの経営者も変わった為に夏の初めから、新しい寮を建設している。

私が働いているオーベルジュは、都心の高級ホテルで修行した有名シェフが、倒産した規模の小さな温泉を売りとしていたホテルを買取り、改築してから営業したのが始まりだった。

改築したのにも関わらず、思うように客足が延びずに倒産しかけた所を全国的にホテルグループを手がけている企業に買収された。

寮も元々は以前のホテルでしようしていた独身寮だったらしい。

新しい寮は外壁も完成し、今は中の細かい部分を作業している。

今までの寮と違って、個人の玄関もあるし、新築アパートそのものだなぁ。

古い寮は思い出が沢山詰まっているから何だか、心寂しい。しかし、アパートに一人暮らしをした事がないので楽しみではある。

寮に着くまで、新しい始まりを考えていた。

自分の部屋に入ると制服を脱いで、ベッドに寝転んだ。

響が心配してくれたせいか、泣き明かした事も忘れたように直ぐに眠りにつく。

昨日、ウトウトした時のように夢は見ず、深い眠り。

目が覚めると夕方で、カーテンを開けたままの部屋は薄暗かった。

寝過ぎたのか、体はダルさが残っていて起きるのが辛い。

とりあえず、カーテンを閉めて、電気をつけて。

ダルさの残る体にムチを打って起きた。

背伸びをしてから、スマホをチェックする。

メッセージがきていた。