虜にさせてみて?

”大丈夫”と言う美奈の顔は、涙を零さないように必死だ。私に出来る事はないかと探すけれども、すぐには見つからなくて自分が情けなかった。

親友が困ってる時にどう声をかけていいのかも、どうしてあげたら良いのかも分からない。

「たまにはアイスコーヒーご馳走してよっ」

パントリーに入り、背もたれ付きの椅子にポトンッと腰かける美奈。

「今日は9時出勤なんだけど、ひよりに会いたくて早めに来たの。落ち着いたら話すから、待ってて……」

そう言った美奈はテーブルに顔を伏せて泣いてしまった。

美奈にも辛い事があったのに、気付いてあげられなくてごめんね。

頼ってばかりでごめんね。

私は本当にどうしようもない、駄目な奴だ。

アイスコーヒーをそっと差し出すと、パントリーの裏のドアが開いた。

響、だった。

美奈は響に気付くと挨拶をして、アイスコーヒーを飲み干す。

「後でまた来るね」と言って、そそくさとラウンジを後にした。

「ひより、ごめん」

「いいよ、別に。湊君と居たなら、もう気にしないし忘れる事にする」

「忘れる? 夜の事か?」

夜の事? この期に及んで何を言ってるのだろうか。

あんな時に居なくなられて、寂しくて眠れなかったのは確かだ。けれども、今は一人にされた事よりも重要な事がある。

忘れると言ったのは、一人にされた事。今、問題なのは、電話の事と内容も含んでいる。

響からは聞かない。

きちんと美奈から聞かなくてはいけない。。

「馬鹿っ! 夜中の電話と内容だよ。二人の間に何かあったんでしょ? でも美奈から聞くからね、響は言わないでっ」

こんな私でも美奈を助けたいの。

「分かったよ。じゃあ、言わない。俺が店番してやるから、お前は寝て来いっ! 大丈夫、マネージャーには上手く話しておいたから」

まるで邪魔者扱いするようにラウンジを追い出された。

私が響や駿の事をウダウダ考えてる時に、美奈と湊君の間には、それ以上の難しい問題が起きてる事を私はまだ知らなかったんだ。