虜にさせてみて?

「絶対、負けないから」

「負けないって何を?」

「だから、帰って来たら話すよ」

黙れと言わんばかりに首筋にキスを落として、更には痺れるような深いキス。

必死で響の背中をギュッと掴んで、存在を確認する。

「いたっ」

左の鎖骨に舌を這わせたかと思うと軽く噛んで、その斜め下に赤い跡をつけられた。

「おとなしく待ってて、すぐに戻ってくるから」

そう言って、響はベッドから降りると部屋を出た。

鎖骨とその下のキスマークにそっと触れてみる。

今はただ、信じて待つしかない。

元々、口数も少ない響だし、本音は酔わないと言えない。それでも少しずつ、心を開いてくれた事、それだけで充分だと思うしかない。

響を信じているから。

帰って来てから話を聞くのを待っている。

――けれども願いは虚しく、朝になっても響は帰っては来なかった。

仕事の時間になり、待ち続けて一睡も出来ないまま出勤した。

響は一体、どこに行ったの?

帰って来るって、続きもするって言ってたのに。

溜め息しか出て来ないし、寝不足でボンヤリとしている頭を起こす為に、ラウンジに置いてあるお客様用の紅茶を自分用に淹れる。

眠い。ダルい。寂しい。

オープンの準備はしたものの、何もする気が起きない。

お客様も居ないので、紅茶を一口飲んでカウンターに置き、後ろ側にある椅子に腰かけた。

壁に寄りかかると目がとろんとしてきて、知らぬ間に閉じていた。

「ひよりちゃん、おはよう」

遠くで誰かが呼んでる。

「おーいっ、ひよりちゃんっ!」

「うわっ!」

「おはよう、ひよりちゃん」

遠くではなくて、目の前でケーキを届けに来た湊君が呼んでいた。

急な出来事に驚いてしまい、体制を崩して椅子から落ちた。

「あいたた」