虜にさせてみて?

「あの、スマホが鳴ってる」

「シカトしろ」

「……けどっ、んっ」

吐息が交じり合う中、テーブル上に置いてあるスマホは鳴り響いていて止まる気配はない。

「うるせぇなぁっ!」

「いいよ、出て」

渋々とスマホを取りに行き、電話に出る響。

夜中の電話。

相手は誰なのかが気になるけれど、軽々しく聞けない。

優しい話し方の響。電話口の相手に嫉妬してしまう私。

百合子さん?

それとも違う人?

一人でタオルケットに包まって、さっきまでの幸せ気分は半減していく。

「ひより……」

「ん?」

「ごめん、帰って来たら話すから。ちょっと出かけて来る」

「えっ、今から? 嫌だよ」

こんな夜中にどこに行くつもり?

彼女置いて、しかもこんな状態で。

響は何を考えているの?

嫌だよ。

涙がジワジワと溜まり始めて、溢れ出しそうになる。

得体の知らない電話に、追い撃ちをかけるかのような呼び出し。

「響の、馬鹿っ」

「泣き虫。すぐ帰るから待ってて。お前、部屋戻るなよ。帰ったら続き、するんだから」

そそくさと私服に着替えている響に、無我夢中で抱き着いた。

私を一人にして、行かないでよ。

「嫌っ、行っちゃヤダ」

「俺だって行きたくないけど。お前、布団落ちてるっ」

タオルケットを引きずって、響の元へと行ったハズが肝心のタオルケットはズレ落ちてしまい、上半身の肌が見えていた。

でも恥ずかしいよりも、響に行って欲しくなくて私は必死だった。

すがってばかりいちゃ駄目だと分かってはいるものの、今は響を失いたくないの。

「きゃぁっ」

「俺にだって持ち上げられるし。軽いよな、お前」

ヒョイッと軽々しく、お姫様抱っこされて、ベッドに戻された。

一日で二回も、しかも違う男の人にお姫様抱っこされた私。

もしかしたら、さっちゃんの車から運んでくれたのも響だよね?


自分こそ素直じゃないくせに、意地悪ばっかり言うくせに、今だけは甘さたっぷりなんてズルイ。

「悪かった、ごめんって」

タオルケットをめくり、キスをして来た響。

何気なく、響の胸に触れると心臓の鼓動が物凄く早い。響もドキドキするんだなって分かった。

「響、凄くドキドキしてるね」

「うるせぇな、俺だって緊張するんだよっ。初めて好きな女……」

ん?

「好きな女? なに何? 続きが聞きたいなぁっ」

「うるせぇな、黙れっ」

照れ隠しなのか、さっきよりも深くて、息もつけない位のキス。

響のドキドキは、緊張してたからなのかな?

『好きな女』の続きは何だろう?

続きも気になるけれど、『好きな女』だって!

以前言われた『好きな人は目の前に居る』とは違う。

あの時は駿に夢中で、響も本気で言った訳ではなかった。

けれども、今は違うよね。

私も言われて嬉しいし、響の本心だと信じてもいいよね。

響と出会って、正式に付き合い始めるまで、短い間だったけれど色々あった。

毎日一緒に居る分、短い間だって、濃密な時間だと私は思っている。

”響に会えてよかった”

そう心から思えるんだ。

「本当に後悔しない?」

「うん、何回聞かれても同じだよ。後悔しないよ。響、大好きっ」

首の後ろに腕をギュッと回す。

響、大好きだよ―─