私は捕われの姫君。高い塀を登って、王子様が助けに来たの。

あれ?

グリム童話でこんなシーンあったよね?

でも、あれは王子様が会いに来ただけ?

「王子様、私も一緒に逃げたい」

――ベチンッ。

「いたっ」

おでこを軽く手のひらで叩かれた。

「何が王子様だ? 逃げたいだっ、馬鹿っ!」

「あ、響。響ぃっ」

私は夢を見ていた。

目が覚めたら響の部屋で、目の前には響が居る。

思わず抱き着いて、涙が溢れた。

響、響、響!

駿にキスされた時、何度も何度も響の名前を心の中で叫んだ。

いつの間にか、心の中を支配していたのは響だった。

響が駿を忘れさせてくれるなら遊ばれてもいいだなんて思ってた自分。

今は愛しくて、大好きで、手放したくない。

不器用な優しさも、はにかんだ笑顔も、全部、私だけのモノにしたい。

「よくもまぁ、すぐに泣くな」

「女の子は泣き虫だもんっ」

頭を優しく撫でてくれた響は、強く強く抱きしめてきた。

「お前、シュンのとこに戻りたいなら戻れ。戻らないんだったら……」

「きゃっ」

響が抱きしめていた腕を離して、私の腰を支えながらゆっくりとベッドに倒す。

「覚悟、してろ……よ?」

ドクンッと心臓が跳ねる。

響の真剣な眼差し、近付く顔。

キスまであと数センチ。

いつもよりもドキドキして顔が強張り、目をギュッと閉じる。

「……っぷ、何を期待してんだか」

あ、あれ?

目を開けると響は笑っていて、何だ拍子抜けした。

「お前、着替えて来なくていいのか?俺はもう寝るけど」

「あ、着替えるよ。待ってて、寝ないで待っててよ」

響は既に寝る支度を整えていて(響はいつもジャージ)、布団から降りるとあくびしてた。

私はお風呂入らなくてはいけない。響、なるべく早く来るからね。