「何が言いたいんだよっ」

響君は声を張り上げて、駿の胸倉を掴む。

駿はそれでも平然としていて、「意味なんて分かってるくせに。とにかく、ひよりは諦めない事にしたから、そのつもりでいてね」と淡々と返してきた。

響君は拳を振り上げて、「アイツがどれだけ苦しんだと思ってんだよ。人の痛み位、分かれよ」と言ったけれど駿がまた口を挟む。

「殴りたきゃ、殴ればいい。今までの事は大半がひよりの勘違いだ」

「勘違い……?」

その言葉に困惑した響はフリーズしたかのように固まる。その隙に駿は胸倉を掴んでいた響の腕を振り払う。

「そうだよ。今更だから、全ては言わない。俺にも非はあったから。でも言ったら、ひよりはどうするかな?」

クスッとひよりを見て笑った駿は、「じゃあ、またね」と言って車に乗り込む。

ただならぬ雰囲気が取り囲む。

どうしよう。

「あ、お腹すいたなぁ、俺。寮に行く前に何か食べよっ」

「うん、花火の二次会に行こう。ね? 美奈、ひより、水野君」

困った時の助け船は、やっぱり湊君。すかさず、さっちゃんもそれに答える。

「よぉーしっ! カラオケ行こうっ」

「えーっ! それはヤダ」

カラオケならば気持ちも明るくなるかなと思ったけれど、街にまた逆戻りな為、さっちゃんに断られた。

私は響とは話をしないまま、車に乗った。

微妙な空気のまま、車は走り出す。

「私も運転したいなー」

「美奈の運転は荒いから駄目っ!」

美奈が運転したいと言い出したが、車の持ち主のさっちゃんが継続して運転する事になった。

キッパリとさっちゃんに断られた美奈は大人しく助手席に乗り、後部座席には私、響、湊君の席順。

美奈とさっちゃんが話をしている間、後部座席組は黙り込んでいた。

色々あって疲れちゃったなぁ。

眠くなってしまい、無意識には響の肩にコツンと頭がぶつかってしまった。

平然としてるけど、響は避けたりしない。

それどころか、手の上にはそっと響の手が乗せられた後に軽く握られた。

何だか、安心する。

響は挑発したりしないと感情を表に出さないけれど、何気ない優しさとか、好きな気持ちとか、本当はいっぱい溢れている人。

私は駿では幸せにはなれない事を確信する。

お互いの傷も、響と二人なら乗り越えられるよね?

私は響の肩を借りたまま、眠りについていた──