「美奈ーっ、大好きっ!」

「うわっ、ちょっと、いきなり抱き着かないでよっ」

美奈が本当に好き。同期で同じ歳。フロント所属。

性格も明るくて、裏表がなくて、後輩に慕われる良き先輩。

「あっ、ひよりの王子に何やら群がりが……!」

玄関に着くと、響君の周りには女子社員が群がっていた。

響君が私と美奈に気付くと、周りの子を構わず、真っ先にこっちに向かって来た。

周囲の痛いくらいの冷ややかな目。

「お前、遅いっ!」

「だって、まだ0時前だよ」

「早く終わったんだから、それなりに早く行動しろよな」

それは全て、響君の都合ではないか? 私の隣で美奈は声を殺して笑っている。

「先輩っ、どこか行くなら私も行きたいですっ」

さっきまでの視線をなかった事にしてしまったのか、今年入ったばかりの新入社員の子が話しかけて来た。この子は予約担当の子だから、余り接点は無かったのだけど……。

「えっと……」

横目でチラリと響君を見たが反応は無く、むしろ怒り気味。

「駄目、駄目! この二人は付き合うことになったんだから邪魔しないでよね?」

美奈が雰囲気を悟ったのか、救いの手を差し延べてくれた。

「へぇ、会って間もないハズなのに先輩って軽いんですね?」

その言葉に周囲もクスクスと笑い出し、ヒソヒソ話も聞こえた。

立ちすくむ私に響君が「そーゆーの、ウザイんだよ」と冷ややかな視線を送りつつ、更には大きなため息をつきながらボソッと言った。