虜にさせてみて?


――時刻は夜9時半。

私達の遊び時間は開始する。

「何か、肌寒いね」

「山を降りれば平気じゃん?」

山を降りて街に辿り着くと、気温はガラリと変わる。

街は余り、雪も降らない。

「はぁっ、何でこんな事に……」

「溜め息、つかないの! お酒はないけど、ジュースはあるよ」

お客様の送迎用に使用しているマイクロバスの中、溜め息をついた響が美奈に怒られた。

美奈は私みたいに顔色を伺って話しかけたりしないので、ある意味、見習いたい。

仕事の都合が合わなくて、集まったのは結局、8人。

「さっちゃんが終わり次第、自分で来るって。現金が合わないらしい」

「それは大変だね、早く来れればいいけど」

「響さんっ、響さんっ! 一緒に花火をやりましょうね!」

美奈と私の会話を横切り、響に話しかけて来たのは総務の子だった。

何かと言うと私に突っ掛かり、苦手な子。

響がこのオーベルジュで働くようになって、あの玄関先でのヒソヒソ話以来、話してなかった。

響は露骨に嫌な顔をしてるけれど、この子は気にする素振りもなくおかまいなし。

「線香花火なんかどうかなぁ? ロマンチックじゃないですか?」

舌ったらずな言い方に私はイライラしてしまう。

湊君が声を出さずに笑って、肩が震えてる。

それに気付いた響が、睨みつける。

でも湊クンには効果がなくて笑い続けてるし、美奈なんか気付かないし。

早く着かないかな、河原に。

「ひより、ヤキモチ?」

「別に、響なんかどうでもいいよ」

「こちらこそ」

美奈が聞いてきた言葉に売り言葉に買い言葉で、お互いに返す。

私も響は、あの子に押され気味のペースにイライラ気味で喧嘩越し。

喧嘩なんかしたくなかったのに、花火の最中までも険悪ムードだった。

私の一言がいけなかったから反省はしている。

ただ、響の性格ではどちらかが謝らなきゃ、仲直りなんて自然に出来ないんだけれど、『ごめん』と素直に言えなかった。