虜にさせてみて?

「今日、もしも23時ちょうどにラウンジ閉められたら……」

響はコーヒーマシーンで、自分のコーヒーを勝手に入れながら言ってきた。

「部屋に……来る?」

「うん、行く。遅くても行くよ?」

「お前まで寝不足になるから」

「寝不足なんて今更だよっ」

「あっそ」

あれ?

今までは会話が喧嘩ごしだったから、普通の会話って違和感があったりする。

素直な響に素直な私って何故か、面白い?

……いや、恥ずかしい?

「お前、顔、赤い」

「え? あ、暑いもんっ」

「冷房ガンガン効いてるから寒いくらいなのに? お前、バカじゃねーのっ」

お客様が来ないからと言って、カップに注いだコーヒーを持って、パントリーの椅子に座った響の顔も赤かったりして。

「イチイチ、反応すんじゃねーよ、バーカッ」

ボソッと言った事、聞こえてるけど?

響だって、イチイチ反応するじゃない!

むしろ、響の方が赤くなったりしやすいってば!

……そういえば、響ってカッコイイのに独り身だったんだよね?

それってやっぱり、百合子さんを想い続けていたから?

百合子さんを想うあまり、他の子じゃ駄目だったとか?

「響、あのっ」

「なーにコソコソとサボってんのよ、二人でさぁ」

聞いたら怒られると思いつつ、懲りずに遠回しに聞こうとしてた私の後ろから声がした。

美奈だった。

「み、美奈! な、何?」

「何をそんなに驚いてるの?やましい事でもあった? 私、今からご飯だから、ひよりをお誘いしに来たのにーっ」

美奈がニヤニヤしながら言った視線の先には、響のうなだれた姿。

「響君、珍しいね、ダラーッとして。昨日の美人、響君の知り合いでしょう?」

「美人か? こないだまで働いていたバーのマスターと奥さんだよ」

「響君の回りには美男美女が沢山居そう。類は友を呼ぶだね」

寝不足でやる気が半減している響を置いて、アタシ達はご飯を食べに社員食堂へと向かった。

美奈に昨日の事は直接は話せなくて、でも一番に伝えたくて、食後にメッセージアプリで知らせた。

キスした事は内緒だけれども。

「い、いつの間に! え? 実はドッキリとか?」

「あはは、違うよ。湊君以外には内緒でお願いします」

美奈の驚きようは面白くて、思わず笑ってしまった。

確かに何日か前までは、駿の事で頭の中がいっぱいだったからね。

たまに思い出してしまうけれど、今はちゃんと響が好きだと胸を張って言える。

「もちろんだよ。湊に早速、メールしちゃおうっと。おめでとう、ひより。今度、四人でどこかに行こうね」

楽しみにしてるから。後程、計画を立てる事になった。

毎日、好きな人と一緒にいれるって幸せな事だ。

今の幸せがいつまでも続いたらいいな。

ずっと、響と一緒にいれたらいいな。