虜にさせてみて?

「さっきのは百合子達が泊まりに来るって言って、ウザイから言っただけだから、気にしないで」

「気にするよ!」

「悪かったよ、ごめんって……」

「響はさ、過去はどうでもいいって言ったよね?」

私は勝手かもしれないけど、あのね……。

「ん?あぁ……」

「だったら、あーっ、こっち来てっ」

私はカウンター裏のパントリーに響の手を引っ張る。

扉を閉めて、鍵を閉める。両手をそっと頬に触れて、背伸びをして、響にキスをした。

「今は駿よりも、響が気になるのっ。だから、百合子さんに嫉妬してた」

「勝手な奴……」

響は、少しかかんで甘いキスをくれたから、私は響の首の後ろに両手を回す。

遠回りしたけど、これで良かったんだよね?

もう、駿の所には後戻りしない。

勝手でわがままな私を受け入れてくれて有難う。

今度は私が響を救えたら良いのに。

深みが増すキスの嵐の中、ぼんやりと考えていた――

「響、おはよう」

「はよ。ふあぁっ、ねむっ」

「昨日は夜中まで、おしゃべりしてたの?」

「うん、寝たのは朝方。アレは先に寝て、マスターと話してた」

「アレって。マスターって言っても若いよね」

「そうだな、マスターは父親の店を継いだから」

昨日、戸惑いがあった心も響に落ち着いた。

わだかまりがあったのが嘘のように、響とはごく自然に挨拶も会話も出来ている。

午後1時になり、響はラウンジに出勤して来た。

夜のラウンジ営業時に百合子さん達が来て、私も誘われた。

午前様になってしまい、私は先に帰ったけれど響は朝方まで話していたんだね。

積もりに積もった話もあったよね。

百合子さんと話している笑顔の響を見ているとヤキモチを妬いてしまうけれど、百合子さんもマスターもとても良い人達で知っていくうちに好きになった。