虜にさせてみて?

百合子さん達が来てくれたおかげで私の心は穏やかになった。

一時だけは考えなくて済む。

「響はね、お酒飲めないんだよね」

「酒飲んだ時の響は素直で気持ち悪い」

「あははっ! それに、モデルにスカウトされたのに断って……」

二人の会話に、どんどん響の過去が出てくる。

聞けなかった過去が出てきて、胸が疼く、痛む。

「あの、どうして、私に色々話してくれるんですか?」

「ん?ごめんね、つい、響がね……」

思わず聞いてしまった。

百合子さんから出てきた答えは、意外なものだった。

「電話で貴方の事を嬉しそうに話してたから。”彼女が出来たんだ”って。だから、心配しないでって……」

――嬉しそうに話していたから。”彼女が出来たから”って。だから、心配しないでって……。

百合子さんの言葉を頭の中でリピートする。

ねぇ、響?

私の事、好き?

「百合子、余計な事をっ……!」

私が目を丸くして驚いている時に、響はごみ捨てから戻って来ていた。

会話が聞こえていたらしく、響の頬は赤い。

「ははっ、響、真っ赤だ。可愛いーっ!」

マスターがからかう。何も言えない響の姿。

他のお客様が来るまでずっと、響が中心だった会話。

マスターも百合子さんも響の事を考えてくれていて、響も信頼しているから生まれるのかな?

響の自然な笑顔は。

悔しいけれど、私はまだまだ足元にも及ばない。

ヤキモチも妬きつつ、羨ましくも思える信頼関係。

いつか、私の前でもこんなに笑ってくれるのかな?

自分でも信じられない位、心は響に支配されているのが分かった。

百合子さん達は、夕食前に温泉に入ると言って部屋に戻った。

二人が居なくなった後はあまり会話もなく、ラウンジ営業終了後、片付けをしている時に響がため息をついてから言う。