虜にさせてみて?

けれども、さっきの車の中での私への言葉は何?

お酒の力を借りたかもしれないけれど、言った事を全部忘れてしまったの?

本音じゃなかったの?

「意気地なし! 馬鹿っ!」

私は煮え切らない響君に怒りを覚えて、水のペットボトルを勢いよく取り上げた。

「水返せよっ」

「嫌だよっ! やっぱりあげないっ! 響君が……」

「何だよ?」

「欲しいモノが手に入らないのは、自分で諦めてるからだよっ! 欲しいんだったら、力ずくでも何でも奪えばいいでしょ!」

駿を忘れたい。そして、響君も手に入れたくなってしまった。

いつの間にか、響君を好きになっていたんだと自覚する。

駿の“心”がずっと欲しかったけれど、今はもうどうでも良い。

「頭痛いんだから、大声で話かけんな」

「はぁっ、頭痛いのだって、駿と張り合ったからでしょ? 何で?」

もう一度、聞きたいの。

『側に居て欲しい』って言ってよ。

「……さぁ?」

「そんな答えが聞きたいんじゃない。酔ってた時に言った事、もう一度言ってみてよ?」

「……何か言ったか、俺? 覚えてない」

お酒の弱い響君は、おそらく記憶が途中から飛んだのだろう。

駿と会って話をしてムキになって、カクテルを一気飲みしたらしい事も覚えてないのだろう。

それでも、思い出して、思い出せないのならば……。

「中途半端に心に入り込まないでっ! 入るなら完全に忘れさせてよ……ね……!」

私は水のペットボトルを響君に投げ付けて、捨て台詞を吐いて部屋に逃げた。

部屋の鍵をかけると直ぐに布団に寝転がった。

もう、嫌だ、嫌だ、嫌だ。

何処か、誰も居ない場所へ消えてしまいたい―─