「じゃあ付き合ってみる?」

満面の笑顔で言ってみた。

「一回きりで、彼女づらすんなよ?」

「あはは、ドラマの台詞みたい!」

おどけてみせて、重くならない軽い雰囲気で行こう。

私は”軽くて、誰とでも寝る女”、……それで良いんだ。

「考えといてね? 有難う、先に準備して仕事行くね」

私はベッドから降りて、呆然としてる響君を残して部屋を出て行った。

シャワーを浴びて、仕事に行く支度を始める。

虚しさと申し訳なさと、色んな感情が入り交じって涙が出た。

シャワーが涙ごと、体を流れていく。

”心”が強くなりたい。

地に足を付けて、一人で立たなくては意味がない。

分かってはいるけれど、自分自身が可愛いからか、一人では立ってはいられない。

響君、ごめんね。

――もうすぐ13時になり、響君は出勤してくる。

朝8時に出勤した私は、鳴らないスマホとにらめっこ。

あれから駿からの連絡はない。

吹っ切ろうとしてるくせに、連絡を待ち望んでいる自分も居て、やりきれない。

お客など、なかなか来ないから、余計な事ばかり考えてしまう。

「おはようございます」

「おはようございます、二回目だね。今日はアールグレイを入れてみましょうね?」

気付いたら響君が目の前に居たから慌ててしまったけれど、とっさに出た言葉で上手くごまかせたみたい。

「ね? 響君」

「近寄るなよ? 気持ち悪い……」

「うわっ、冷たい! ……昨日、しちゃったく……」

響君がどう出るのかな? と思って試すような一言。

嘘だとはいえ、誰かが聞いているかもしれないから、とっさに口を塞がれた。

ラウンジのすぐ裏にはレストランがある。

手を離されてから、すぐにパントリーと呼ばれる裏方の場所に移動したら、響君も移動してきた。

表の客の座席からは、見えない場所。

「響君は彼女居ないんでしょ?」

昨日の歓迎会で女の子に聞かれて、私からもしつこく聞いて、やっと教えてくれた事実。

「今は……居ない」

「今日から私が彼女ね?」

ごめん、本当にごめん……。

心の傷が癒えるまで、側に居て欲しいの。

泣かないように目に力を込めて、真っ直ぐ響君を見て口元だけ笑った。

堪えて、泣かないで。

次の瞬間に予想もしなかった事が起こった。

「……おまえなんて、離れられなくなった時点で、捨ててやるよ」

両手は抵抗出来ない位に強い力で、壁に押さえつけられて、唇を塞がれた。

吐息も漏らせない程に。

私も分からない響君の行動。

あれだけ”嫌だ”と言ってたくせに。

何故?

私にとっては好都合だけれども。

響君がくれる温もりで私の中の駿を消して欲しい。

消してくれたら、その時は私が響君に本気になっても離れてくれて構わないから。

それまでに強くなるから。

利用した報いは受ける覚悟で。