虜にさせてみて?

「響君、”付き合って”って言った事なんだけど……」

もう、よそう。響君を自分の為に利用して、騙す行為は。

「忘れてくれるかな?」

いつもみたいに怒って欲しい。いつもみたいに、ウザイと言って突き放して。

いつもみたいに……優しくしないでよ?

「はぁ。本当、お前は自分勝手な奴だな。人の気も知らないで」

短い沈黙の後、響君は溜め息をついて、ゆっくりと抱きしめていた腕を離した。

私の顔を見ない内に、また坂道を登り出す。

街灯と月明かりが照らす夜道を、響君の少し後ろをトボトボとゆっくり歩いた。

途中、響君が「ムカツクッ!」と言って小石を蹴り飛ばす。

前を歩いていた響君がピタッと止まった。

「お前が先に歩けよ」

「いいよ、別に」

「いいから、先に行けって!」

「分かったよ」

響君が怒鳴る様に言ったので、追い抜いて歩いた。

トボトボと歩いている私に対して、少し距離をとって歩いてくる。

この離れた距離感が元々の私達。

恋人にも、友達にもなれないらしい。

さっき、響君が抱きしめて来たのは何故だろう?

こないだ、キスされたのは何故だろう?

助け船を出してくれるのは何故だろう?

考え出すとキリがないけれども。

響君に触れられた時、嫌じゃなかったのは確か。

飲み会の時に酔いにまかせて、自分からもキスもしたし……。