虜にさせてみて?

掴まれた腕は響君がギュッと力を入れていて痛かった。

「響君!」

「何だよ?」

「何か、怒ってる? 腕、痛いよ」

「うるっせぇな! ……うるさいんだよ、お前は!」

早足の響君にやっとの思いで着いて来て、立ち止まったと思ったら予想外だった。

響君が掴んでいる腕を引き寄せて、私を力強く抱きしめた。

手のやりどころに困って、響クンの背中を叩いてみる。

「響君?」

「お前、本当にズルくて、嫌な女。アイツ、友達なんかじゃないんだろ?」

駿に出会った時の私は、とてつもなく違和感があったのだろう。

愛しさや戸惑い、駿に対する全ての感情が、表情や行動に出ていたはずだ。

響君はいつも周りをよく観察しているから、少しの変化にだって気付いてしまうのかもしれない。

「ごめん……」

「何で謝るんだよ? 謝るなよ」

駿の事を話すべきか、話さないべきか、迷っていて、ただ謝る事しか出来なかった。

謝るのは心の隙間を埋めて欲しくて、利用しようとしていたから。

駿と付き合っていても気持ちが一方通行で逃げ出したくなっていた。

別れようと思ってた時に現れた響君は見た目が良くて、いつでも女の子が側に居るようなイメージだった。

駿に別れ話を切り出した後に遊ばれても良いから、適当に心の隙間を埋めて欲しかったの。

だけれど、実際は思った以上に繊細で優しい人だった。

響君と出会って、まだ僅かだけれど楽しかったよ。

美奈と湊君と四人で過ごした時間もドライブも。