そんなこんなで、一時間近くもお風呂に騒ぎながら入っていた私達。

「今日のお昼はさ、お弁当でも買って誰かの部屋で食べようか?」

「それ、いいね! 賛成っ」

お風呂から上がって身支度を整えていると、さっちゃんがそう提案してきた。

現在は13時半ちょっと前。

引っ越しに夢中になっていた私達だけれど、サービススタッフとしてのお昼時間としては普通の時間。

私達は着替えて、お弁当を買いに行く事にした。

お弁当と言っても、近場のテイクアウト出来るカフェご飯なんだけれども。

そこは駿のバーの目の前のお店だったりする。

駐車場は少し離れた場所にあって、カフェまで歩く。

歩きながらも何気なく、駿のバーを見上げてしまう。

もう行く事も、駿に会いに行く事もないけれど。

駿に恋をしていた自分が懐かしく思えた。

そういえば、カフェの前の自販機で響と居た時に駿に会ったよね。

今考えたら、あの時に響に抱き締められたのは響のヤキモチからだったのかな?

あの頃はまだ駿を忘れられなくて、響を利用していた感があった。

今は違う。

今なら胸を張って、『響だけが好き』と宣言出来る。

駿の事は思い出として心の奥底にしまいたい。

もう、駿に対する感情なんて二度と出て来ませんように。

「きゃっ?」

「今日は一緒じゃないの? 響君」

二人から遅れる事、数歩後ろに居た私は突然、勢いよく、誰かに背後から抱き締められていた。

突然の事に体勢を崩しそうになり、お腹辺りに回されている腕に手を伸ばした。

この声、この香水の香り。

もしかして、もしかしなくても……駿だ。

顔を見なくても分かってしまう私が憎らしい。

早く記憶から声も、香水の香りも、温もりも消しさってしまいたいのに――