虜にさせてみて?

確かに愛の告白でも何でもないけれど、嬉しかった。

“お前は特別”と言われたかのよう。

「それに、さっきの話は真に受けなくていいからなっ」

「ん?さっきの話?」

「結婚がどうとかって。気にしなくていいからな」

優子さんの勝手な言い分だと聞き流していたけれど、響に直接、『気にするな』と言われたら考えてしまうよ。

私はこのまま、響と一生、一緒に居たいけれど、いつか離れ離れになる日が来るかもしれない。

「気にするよ。私は……」

『わたしはずっと一緒に居たいよ』――そう言いかけて、心の中にしまった。

その言葉を言ったら、重荷に感じるかもしれない。

その気がなくても響は優しいから、私をいらなくなっても突き放す事が出来なくなる。

だから、言わない。

「私は何だよ?お前なんか、俺しか面倒見れねぇよ。シュンに呆れられて俺に拾われて良かったな。金もあるし、このままずっと、ここに居ようか……」

晴れ晴れとした秋空を見上げて、憎たらしく言った響。

これはプロポーズだろうか?

心臓は突然として跳び跳ねて、顔が更に赤くなる。

「プロ、ポーズ……?」

隣に座る響の袖をキュッと掴んで、顔を見上げて言った。

二人の間を、少し肌寒く感じる秋風が通り抜けていく。

「さぁ、な?」

無表情なまま、その短い答えの後は何を思ったのか、そっと耳の後ろに手を添えて、軽く触れるだけのキスをくれた。

公園にはジョギングしている人やベンチで休んでいる人などが沢山居たのに――

響は絶対に公衆の面前では、こーゆー事をしないと思ってた。

目を閉じる間もなくされたキスの感覚だけが唇に残っていて、アタシは呆然となる。

何も言うことも出来ずに、恥ずかしくて下を向くしかなかった。

周りの人が見てたかもしれない。

嬉しいよりも恥ずかしい。

「都会じゃ誰もこんな事、誰も気にしないから。お前はココには暮らせないな」

クスクスと笑って私をからかう響の頬をつねった。

私は響にからかわれてるだけなのかな? と思うと無性に腹が立った。

さっきのプロポーズ紛いの言葉だって、本気じゃないのかな?

私一人が浮かれていたみたいで馬鹿みたい。