虜にさせてみて?

優子さんとお別れして、次の行先は水族館。

笑顔で『響の事をよろしくね』と言われ、背中を叩かれた私。

側に居ていいものなのかと考えた日々もあったけれど、やはり響を手放したくない。

不器用だけれども優しくて芯のある、人間が出来てる22歳はなかなか居ないよね。

おまけに顔もスタイルも良いだなんて。

一生に一度、あるかないかの神様からの贈り物かもしれない。

「キャーッ! 見て見て、ペンギン、可愛いっ!
アッチのは泳いでるっ」

「……ペンギンだもん、泳ぐだろうよ」

「都会の真ん中に、しかもビルの中に水族館なんて、凄いよねっ」

「その田舎者発言やめろっ」

ペンギンも可愛くて大好きなクマノミも間近で見て、子供のようにはしゃぐ私に呆れる響。

水族館なんて子供の時以来だったし、初めて彼氏と来たので興奮が鳴り止まない。

水族館を出た後は街を散策。

昼夜関係なく人の通りが多い街の中、心が安らげる公園で一休み。

「うぅ、足が痛い……」

「慣れない靴で歩くからだろっ」

私は靴づれをしてしまい、公園のベンチに座って足に絆創膏を貼る。絆創膏をバッグに忍ばせておいて良かった。

響に少しでも可愛く見られたかったのに、逆に迷惑をかけている新しい靴。

東京はどこに移動するにもしても、歩く事の方が多い。

響は東京育ちかもしれないが、私ははどちらかといえば田舎育ちだ。

田舎の移動は電車よりも車の方が主だし、仕事でも歩いているけれど、それ以上に歩いている気がする。

「疲れただろ? 3時過ぎたし、チェックインして少し休むか?」

「やだっ! 時間が勿体ないもんっ!」

「明日もあるのに、それともどこか行きたい所があるわけ?」

行きたい所。あるよ、取って置きの場所がっ!

「百合子さんとマスターのバーに行きたい。百合子さん達にも会いたいし、響がどんなバーで働いてたのかも知りたい」

「俺は絶対に嫌。また今度にして。今日はあの人のお陰で疲れたし、他人に関わりたくない」

「私も他人だよ?」

『他人に関わりたくない』と言うけれど、私もれっきとした他人。一緒に居て気疲れしちゃうかな?

「お前はいいの。嫌だったら一緒に居ないし」

「うっ、」

「何だよ、別に大したこと言った訳じゃないだろ。それなのに顔が真っ赤だな」