虜にさせてみて?

「余計な事をしやがって! この通帳と印鑑、そこら辺のドブ川に捨ててやる」

「あら、響はいらないって言ったんだから、その権利はないのよ。ひよりさんにあげたんだからっ」

「ひより、ばばぁから一切、物を貰うな。何されるか分からないからな」

親子喧嘩を始める二人。

「っぷ、響も素直じゃないね、有難うって受け取れば良いのにっ」

じゃれ合いにしか聞こえない親子喧嘩に対して私は思わず、笑ってしまった。

響が変に騒ぎ立てている事が、妙に可笑しい。

「いいから、早く食って出かけるぞ」

「う、うん」

運ばれていた料理は冷めてしまったけれど、とても美味しかった。

無言で食べている私達は気まずいけれど、仕方ないか。

食べ終わった時に響が口を開いた。

「確かにココは美味しいけれど、堅苦しいのは好きじゃない。今度は洋服で行ける店にして」

「今度っていつ? またデートのお邪魔していいのねっ」

「何だよ、それは……」

もしかしたら、響は心の中で優子さんの事を許してるのかもしれない。

そうじゃなければ、次に会う約束もしないだろうし。

しかし、この人は言いたい事はもっと他にもあると思うのに言わないなんて、どこまでお人好しなんだろう?

どこまで、一人で消化して背負って行くつもりなんだろう?

響は本当に優しくて、強い人なんだね――

「……で、結婚式はいつかしら? 私も行ってもいいのかしら?」

「はぁ? 急に何言ってんだよっ! まだ付き合って間もないのに」

「期間なんて関係ないじゃない! 要は2日だろうと、1年だろうと、気持ちが大事なんじゃない? ひよりさん、優子ママって呼んでね」

「あーっ、もう帰るぞ、ひより」

運命は神様が定めた物かもしれないけれど、自分で切り開く事は、いくらだって出来る気もする。

真実は決してなかった事には出来ない。

だからこそ受け止めて 消化しなければいけない時もある。

響は困難を乗り越えて、自分の力で前に進もうとしているんだよね。

見習わなくては。

響と出会えて私も変われた気がする。

いつも支えて貰ってばかりだけれど、いつかは支えてあげられるような存在になりたい。

大好きだと何度伝えても足りないし、ありがとうと何度伝えても足りないの。

最上級の言葉が見つからないけれど、私の素直な気持ち。

とにかく、響は最高の彼氏なのだ。