「えへへっ、呼び捨てされちゃった」

「うるさいっ! 余計な女を巻く為だけだ! 勘違いすんなよっ」

だから、その、わざと視線外して景色を見るの止めてくれないかな? 照れてる用に思ってしまう。そんな態度は勘違いしてしまう。

私は選択を間違ったかもしれない。この人は、見かけに寄らずに純粋だ。

恋に落ちたら、大切にしてくれそうな人。どうしよう? 知れば知る程、深みにはまり込みそうだ。

浸蝕されて行く心。それでいいと思っていたはずなのだが……。

違う、そうじゃなかった。この人を傷つけてはいけないんだ。

「うわーっ、すっごい星だなぁ」

どこにも行く宛てもなく、山道ドライブ。オーベルジュがある坂道を下ってコンビニに寄った後に山の頂上を目がけて車を走らせた。山道途中の展望台からはキラキラと輝く星が良く見える。

真夜中の展望台は山だからか、少し肌寒い。

「俺、こんな星空、初めて見た」

響君は身体ごと吸い込まれそうな星空を上機嫌で眺めている。生まれも育ちも都会らしく、珍しい景色に感激しているみたい。

「北斗七星に、あれは何だろう?」

一人ではしゃいで子供みたい。案外、無邪気な一面もあるのだと知った瞬間だった。

「寒い? 帰るか?」

肌寒くて、半袖からはみ出た腕を擦っていたのが目に入ったらしい。

「大丈夫だよ、寒くない。それにまだ寮に帰りたくないし」

「……さっきの奴ら、気にしてるのかよ?」

「さあ……ね?」

気にしてないと言えば嘘になる。一人になったら、余計な事をまた考え出してしまう。

けれど、これ以上、響君を騙す訳にはいかない。

「俺の部屋に来れば?」

「えっ?」

ストレートな一撃にドキンと胸が高鳴った。

「ただし、床で寝ろ」

「何それ?嫌だよ」

……そんなオチか。

「それとも車の中で寝るとか?誰も通らないみたいだし平気じゃない?」

私にはその発想はなかった。今までも車中泊などした事がない。

「誰か来たらどーすんの?それに何か、動物とか出そうじゃない?」

山道の途中にある展望台だから、獣が出てもおかしくはない。昼間は観光客で賑わっているが、夜は車も通らないから穴場といえば穴場だ。

「怖いのかよ。でも、決定!」

決定と一人で決め付けて、先に車に乗り込みシートを倒して寝転がっている。何とも言えずに勝手な奴だ。

「怖かったら手を繋いでやるよ? ほら?」

さりげなく手を差し延べてくる。断ったら拗ねてしまうだろうし、出してしまった以上、引き返せないであろう手を握った。

後部座席にあった大きめなブランケットを取り、半分ずつ身体にかける。星空に包まれながら朝まで眠りについた。