「俺はこれから出掛ける。ロイ、あとのことは頼んだぞ」

「え?」

「畏まりました、リアン様」


 旦那様は小さく息をついてから、わたしをベッドにおろして立ち上がった。


「行っちゃうの?」


 わたしは旦那様を見上げながらそう呟いた。
 折角会えたのに。もうさようならだなんて。


(っていうか、わたしこれからどうしたら良いんだろう?)


 両親と暮らした家に戻ったところで、一人で生きて行くことは難しい。そりゃぁ前世の記憶が戻った今、家事全般は自分でこなすことはできるけど、十歳の子供ができる仕事なんて高が知れている。前世みたいに、この世界のどこかに孤児院があるのかもしれないけど、あてもなく探せるわけもない。
 それより何より、わたしは旦那様の側に居たかった。毎日旦那様の顔を見て、笑って、幸せだなって思いながら暮らしたい。


(でも、そんなこと、お願いできる立場じゃないよね)


 異種族の小さな子どもを好き好んで引き取る青年はそういないと思う。そういう趣味の人間ならばまぁ、可能性はあるかもしれないけど。旦那様はどちらかというと、子どもは好きじゃなかったし。
 旦那様は目を細めて笑うと、もう一度わたしの頭を撫でてくれた。
 好き。旦那様が大好き。これが最後だなんて嫌だよ。


「行ってくる」


 旦那様はそう言って、部屋を後にした。