「じゃあな」


 その時、アクセスがそう言って穏やかに微笑んだ。
 初対面の時の仏頂面が嘘みたいに優しい表情だ。


「またね、アクセス」


 言いながら、ロイと一緒に手を振る。アクセスは小さく頷くと、翼を広げ、地面を力強く蹴ろうとして――――それからピタリと動きを止めた。


「どうしたの?」


 わたしはそっと首を傾げる。
 するとアクセスは、チラリとこちらを振り返り、それからゆっくりと目を細めた。


「頑張れよ――――アイリス」

「……!」


 わたしは思わずロイと顔を見合わせる。


(名前っ! わたしの名前、呼んでくれた!)


 チビ、とかおまえじゃなくて、アイリスって呼んでくれたことが嬉しい。

 アクセスが力強く地面を蹴る。風が吹き、わたしの頬をそっと撫でる。
 それからわたしは、アクセスの姿が見えなくなるまで、大きく手を振り続けたのだった。