(その辺の事情は知りたいけど、知りたくない‼)


 旦那様が他の誰かを大事にしてたとか、好きだったとか、想像するだけで辛い。
 だけど、知りもせずにエアー彼女に嫉妬するのも嫌だし。
 でもでも、やっぱり知りたくないなぁ。


「アイリスちゃんが知りたいって言うなら、お兄さんもう少し詳しく話してあげるけど?」

「…………知りたくありません」


 応えつつ、ニコラスから顔を背ける。
 あの底意地の悪い楽しそうな表情を見ると、いくら寛容なわたしでもイライラする。

 それなのに、ニコラスはなおもニコニコと笑いながら、わたしの顔を覗き込んで来た。


「まぁまぁ、そう言わず。こんな機会滅多にないよ? あいつは友達が少ないし。意地を張らずに素直になった方が楽になれると――――」

「今すぐ貴様を楽にしてやろうか」


 彼の言葉を遮ったのは、旦那様だった。

 ニコラスの顔から生気が抜ける。旦那様は普段滅多に見せないような、大変良い笑顔で笑っていらっしゃった。


(知らないっと)


 キッチンに静寂が戻り、屋敷の外からニコラスの断末魔が聞こえてくる。
 わたしは大きなため息を吐いたのだった。