(そういえば、今日はいつもよりお帰りが早かったもんなぁ)


 あの時、もしも旦那様が来てくれてなかったら、怖くて堪らないまま今を迎えていたかもしれない。そう考えると、旦那様さまというか。本当にありがたいなぁって思った。


「良いのかな? 僕にそんな態度取って。リアンの学生時代の話とか、聞きたくない?」

「……っ!」


 ニコラスはそう言って、意地の悪い笑みを浮かべる。
 くそぅ!何て魅力的なお誘いなの!聞きたくない訳がないじゃない。


「きっ……」

「ん? なーーに? 聴こえないなぁ~~」


 瞳を細め、口の端を吊り上げたその表情に、イライラが募る。この男、わたしが『聞きたいっ』って言うのを分かっていて、焦らして遊んでいるんだ。軟派な博愛主義者で軽薄、っていうだけじゃない。この男、間違いなくドSだ。


「聞きたいですっ!」


 しかし、こちとら人生2回目。このまま意地を張り続けたら、ニコラスを付け上がらせるだけだって分かるもの。
 めちゃくちゃ素直に欲望を口にする。


「よろしい」


 ニコラスは小さく笑いながら、よしよしってわたしの頭を撫でた。満足そうな笑顔。非常にムカつくけど、背に腹は代えられない。