「ロイ、あれをここに」

「はい、リアン様」


 その時、旦那様が知らない誰かの名前を口にした。姿が見えないままに返事が聞こえて、ややして現れたのは薄茶と白の毛並みが綺麗な小型犬だった。ロイは頭に乗せたお盆を旦那様に差し出し、恭しく頭を下げる。


(ロイちゃんかーー)


 前世で旦那様と一緒に飼っていた犬を思い出して、何だかとっても微笑ましい。わたしの視線に気づいたロイは、人懐っこい表情で笑った。可愛いなぁ。一緒に外を駆けまわってモフモフしたい。


「アイリス」


 その時、旦那様がコップに入った水と、小さな丸い粒を手にわたしを呼んだ。


「これを飲みなさい。おまえは昨夜、血を流し過ぎた」

「はい、旦那様」


 前世で言う造血剤みたいなものかなぁと思いつつ、わたしは旦那様に向かって手を差し出す。けれど、旦那様は丸薬をわたしに渡そうとしなかった。首を傾げていると、ゆっくりと旦那様の手が近づいている。丸薬を摘まんでいる方の手だ。


(もしや! もしやこれは、『あ~~ん』待ち⁉ )