「おまえは……人が留守の間に一体なにを…………」


 冷ややかで、それでいて燃えるような旦那様の声が玄関に木霊する。
 怒りの矛先は当然、わたしを苛めていたニコラスっていう男性へと向けられていた。ふと見れば、ロイの表情は青ざめ、ビクビクと震えている。


「えぇ? 最近リアンの様子が変わったって聞いたからさ。遊びに来てみたら僕好みの超可愛い女の子がいるんだもん。愛の伝道師である僕としては『愛でなきゃ!』って思うじゃない?」


 セクシーな声音に笑みを添え、ニコラスはわたしの顔を覗き込もうとする。
 いやいや、愛でなきゃ、じゃないし!旦那様、明らかに怒ってるでしょう?そういう冗談、多分通じないから!
 この期に及んで空気を読まないニコラスに、わたしの背筋がブルりと震える。

 その時、青白い炎がニコラスの周りで轟々と大きな音を立てた。
 燃えるように熱い旦那様の手のひらが、わたしの瞳をそっと覆う。『見るな』ということらしい。


「え? 待ってよ、リアン。少し話を……」


 だけど、ニコラスの言葉はそれ以上後に続かない。
 代わりに物凄い轟音と、成人男性のものとは思えない情けない叫び声が玄関に木霊したのだった。