「アイリス、学校はどうだった?」


 けれど、たとえ頭の整理が出来ておらずとも、時間は待ってくれない。夕食の席で、旦那様は穏やかな笑みを浮かべてそんなことを尋ねてきた。


「えっ……えっと…………」


 言えない。本当のことなんて、とても。

 だって、学校に通いたいって駄々を捏ねたのはわたしだもの。旦那様が『行かなくて良い』って言うのを、無理やり説き伏せて、通えるように仕向けたんだもの。呆れられたくないし、通うのを止めるように言われちゃ困る。物凄く困る。


「楽しかった、です。お友達もたくさんできて」


 それは、旦那様の奥さんに相応しい、大人の女性の会話じゃなかったけれど。お絵描きしようとか、鬼ごっこしようとか、ボール遊びしようとか……そんな友人関係だったけれど、とても、とても楽しかった。


「そうか。……それは良かった」


 旦那様はそう言って笑ってくれた。嬉しそうな、何だか寂しそうなそんな笑顔に、胸がキューって苦しくなる。

 本当は、早く旦那様の隣に立ちたい。もっとお仕事のお話とか、旦那様が好きなモノとか、そういう話を受け止めてあげられるだけの女性になりたいのに。