(前世の記憶が戻ったっだけで、わたしってやっぱり子どもなんだなぁ)


 身体がそうであるように、精神も現世で生きてきた時間相応にしか成熟していない。

 子どもってのはやっぱり自分の欲求に正直で、楽しいこと、嬉しいこと、悲しいこと、怒りにとても敏感だ。
 ここ数日、旦那様と過ごす中で一生懸命背伸びをしてきたけれど、同年代の子たちと一緒に過ごす気楽さや心地よさを思い出してしまった。そのことが嬉しくて、それから悲しかった。


「だったら、どうしてそんなに悲しそうな顔をしているんですか?」


 ロイは耳をシュンと垂れながら、わたしのことを見上げている。
 理由はちゃんと分かっていても、一言で表すのは難しい。けれど、今は誰かに話を聞いて欲しい気分だった。


「……あのね、わたし、将来旦那様に相応しい女の子になりたいなぁって思ってるの」


 これまで内に秘めていた想いを言葉にするのは恥ずかしかったけれど、ロイならきっと、笑わずに聞いてくれる。だから、正直な気持ちを打ち明けた。


「リアン様に? ……つまり、アイリス様はリアン様のことが好きなのですか?」


 純粋無垢なロイは、キョトンと目を丸くして首を傾げる。尻尾がブンブン揺れ動く。こんな時になんだけど、とっても可愛い。


(なんて、そんな風に考えてないと平常心でいられないんだもの)


 ド直球に『旦那様が好きか』聞かれたんだもの。心臓がめちゃくちゃドキドキ鳴ってる。
 だって、旦那様にもまだ伝えたことが無いのよ?恥ずかしさの余り身体が熱くなる。