(初めてのデートで花嫁さんだなんて、重かったのかもしれないけど)


 旦那様が『可愛い』ってたくさん褒めてくれた思い出はわたしの宝物で。
 一生――――死んでも忘れることはなかった。


「ーーーーまるで花嫁さんみたいだ」

「え……?」


 その時、物凄く唐突に前世のわたしの願いが叶った。
 あまりのことに自分の耳が信じられないくらいだったけど、何度思い返してみても、旦那様の言葉が、声が、ハッキリと心に焼き付いている。
 旦那様は太陽でも見つめる時みたいな眩しそうな、けれど温かい瞳をしていた。まるで自分の花嫁さんでも見るような優しい表情に、わたしの目から涙がポロポロ零れ落ちる。


「アイリス?」


 急に泣き出したわたしを心配して、旦那様がわたしを抱きかかえる。


「どうした? どこか痛むのか?」


 焦ったような表情の旦那様。わたしは首を大きく横に振って答える。


(違うんです、旦那様。わたしはただ、ひたすら嬉しい)


 まるで一生分の幸せを使い果たしてしまったんじゃないかって思う程、わたしは幸せだった。


「目にゴミが入ってしまいました」


 旦那様の胸にギュッてしがみ付きながら、わたしは笑う。

 もしも現世でまた、わたしが旦那様の妻になれたら、結婚式ではさっきみたいな顔で笑って欲しいなぁって思う。真っ白なウェディングドレスを着て、綺麗にお化粧をして、きっとわたしはまた泣いちゃうけど。笑って許してくれたらすごく嬉しい。

 優しくて温かい旦那様の腕の中でそんなことを思いながら、わたしは一人微笑むのだった。