「旦那様」

「ん? どうした、アイリス?」


 ある朝、朝食の席で、わたしは旦那様にそう切り出した。
 テーブルには焼き立てのパンとミルク、ロイが育てているフルーツが並んでいる。


「今日、ロイと一緒にお買い物に行っても良いですか?」


 屋敷に来てから向こう、わたしは敷地の外に出たことが無かった。
 旦那様は日中仕事に行ってていないし、ロイと遊ぶのは楽しいけど、そろそろ外が恋しくなっていた。
 前世の味を再現するために食材を探してもらおうにも、口頭だけでイメージを伝えるのは難しいし、自分で買いに行った方が断然早い。


「……欲しいものがあるならロイに買いに行かせるか、俺が買ってくれば良い」


 旦那様のお返事は、さり気なーーくわたしの提案が却下されたことを意味していた。
 魔族に襲われて命を落としかけたわたしを、旦那様が外に出したくないのは分かる。心配してくれているんだって分かってるんだけど。


「でもでも、いつまでも引き籠っていたら身体に悪いですし、この辺りの地理にも詳しくなりたいんです!」


 今日のわたしは簡単には引き下がらなかった。旦那様を見つめながら、唇を尖らせる。すると、旦那様は眉をへの字に曲げて、わたしを見つめた。