気が付いたら、俺は逢璃の隣で眠っていた。
 悪い夢でも見ていたのだろうか――――一瞬そんなことを思ったが、逢璃の身体は変わらず冷たいままだ。どうやら我を失った俺を、親族の誰かが逢璃と一緒に葬儀場まで運んでくれたらしい。


「逢璃……」


 涙が止め処なく流れ落ちる。逢璃は俺の手を握り返してはくれない。左手の薬指には、俺が贈った指輪が光る。


(俺が先に告白をしていれば……)


 逢璃はもっと幸せだっただろうか。今よりたくさん笑ってくれていただろうか。


(俺が臆病じゃなかったら)


 逢璃を片時も不安にさせずに済んだのかもしれない。あんな風に泣かせずに済んだのかも。


(もしも俺が先にプロポーズしていたら――――)


 何かが変わっていたのだろうか。
 少なくとも、逢璃をこんな風に一人で死なせずに済んだのかもしれない。
 そう思うと、悔やんでも悔やみきれなかった。


(俺は、逢璃をちっとも幸せにできなかった)


 伝えるべきことがもっと、もっと、たくさんあった筈なのに。可愛いも、好きも、愛してるも、全部全部、逢璃のためだけに存在する言葉だった。それなのに、俺は己の想いの一欠けらさえも、逢璃に伝えられていない。


「逢璃……」


 何回呼びかけても、逢璃は俺の名前を呼んでくれなかった。「きずな君」とも「旦那様」とも、呼び掛けてはくれない。

 逢璃がこの世にいなくなった瞬間、俺には何の価値もなくなってしまった。この世に存在する意味も、存在し続けようという意思も何もかも皆無だ。
 目の前が真っ暗だった。俺にとって逢璃は、自分の心臓そのものだった。