「また――――逢璃に先を越された」

 
 呟きながら、俺は苦笑を漏らす。


(俺が先に言おうと思っていたのになぁ)


 告白に加え、また逢璃に先を越されてしまった。
 そのことが悔しくて、けれど嬉しくい。


「だって、どうしてもきずな君と結婚したかったんだもん。好きで好きで大好きで、『絶対今言わなきゃ後悔する』って、そう思ったの。まぁ、指輪とか、色々準備が間に合わなかったんだけど」


 バツの悪そうな表情で笑う逢璃に、俺は自分のカバンを手繰り寄せる。中から今日、受け取ったばかりの指輪を取り出すと、ゆっくりと逢璃の薬指に嵌めた。


「きずな君、これ……!」


 逢璃が信じられないといった表情で目を見開く。瞳が涙に濡れて、キラキラと輝いている。俺が指輪を用意しているのは想定外だったらしい。準備が間に合って本当に良かったと心から思った。


「愛してるよ、逢璃」


 そう口にして、俺は逢璃を抱き締める。
 どこか特別な場所に連れてきてあげられたわけじゃないし、彼女に贈るべき言葉も、全然準備が整っていない。
 けれど、逢璃は信じられない程、幸せそうな表情をしていた。それだけで十分だった。十分すぎるほどに幸せで、俺は想いのままに言葉を紡ぐ。


「だから俺からもお願い。俺を逢璃の夫にして? 絶対、一生幸せにするから。どうか、俺の側に居てほしい」

「…………はいっ、喜んで!」


 そう言って笑う逢璃は、格別に美しく、また愛しかった。
 何度も何度も、愛していると互いに伝えあって、俺達はこの日、結婚の約束を交わした。