「怪我は?」


 その時、旦那様がわたしに声を掛けた。身体がぞくぞくするような甘くて冷たい、素敵な声。


(旦那様! ……っ⁉ )


 今すぐその胸に飛び込みたくて足を踏ん張ってみたけど、身体が言うことを利かない。見れば、足に大きな裂傷が出来ていた。ドクドクと血が吹き出し、そこを中心として身体が熱い。
 それまで気づかなかったのが嘘みたいに、痛みが小さな身体を蝕んで、思わず全力で叫びだしたくなった。


「あっ……あぁ…………」


 変な汗が流れ落ちる。さっきまで物凄く熱かったのに、今度はとてつもなく寒く感じられるようになって。目の前の血だまりに絶望的な気持ちになる。
 もしかしてわたし、また死んじゃうの?折角また、旦那様に会えたのに。また、旦那様の側にいられるようになったのに。


「風切族の裂傷か――――」


 旦那様はそう言って、わたしの前に跪いた。
 旦那様の藍色の服がわたしの血で汚れていく。ダメだよ、折角綺麗なのに!わたしの血のせいで旦那様が汚れるなんて嫌!そう伝えたいのに、唇が上手く動かない。


「あいつらが付けた傷は、かすり傷程度の小さなものでも、時間が経つにつれ大きく広がり、やがては全身を切り裂く」


 旦那様はわたしの傷口を観察しながら恐ろしいことを口にした。