けれど、そんな幸せな数日が続いた反動だろうか。
 金曜日の午後、俺は鬱々とした感情を持て余していた。


(明日は学校がない)


 授業そっちのけで、深々とため息を吐く。

 学校がない、ということは『逢璃に会えない』ということだ。電話番号は知っているし、メールでやり取りもできる。けれど俺は、逢璃の顔が見たいし声が聴きたい。


(それに――――)


 自分でも強欲なのは重々承知している。
 だけど、俺はもう、手を繋ぐぐらいじゃ満足できなかった。


(逢璃を思い切り抱き締めたい)


 抱き締めて、好きだと伝えたい。そうしたら、逢璃は一体どんな顔をするだろう。
 驚くだろうか。嫌がられはしないと思いたい。



「明日、きずな君の時間をわたしにくれませんか⁉」


 放課後。
 開口一番、逢璃は真剣な表情でそう口にする。


「一体どうしたの、逢璃?」


 あまりにも必死な逢璃の様子に、俺は小さく首を傾げる。


「その……明日もきずな君に会いたいから。だから……デートのお誘い?」


 逢璃はそう言って照れくさそうに笑う。