(旦那様が死んじゃう?)


 そんなの、絶対嫌だ。わたしが死ぬのはおよそ60年後。だけど旦那様にはそれ以降、200年近く寿命が残っている。
 わたしが死んだからって、旦那様が死ぬ必要なんてない。死んでほしくなんてなかった。


「ねぇ、嫌だよ。わたし、旦那様に死んでほしくない。わたしが死んだ後もずっと、生きていてほしいよ」

「分かっている。だからおまえに打ち明けた。リアンは知られたくなかっただろうが――――」


 アクセスはそう言って顔を苦痛に歪める。わたしか同じ――――ううん、それ以上に、二人の心痛は大きいだろう。だって、親友に『殺してほしい』って頼まれたんだもの。悲しいに決まってる。


「ごめんね、アイリスちゃん。本当は君はこんなこと、知る必要なかったんだ。だけど僕たちはリアンを止めたかった。それができるのはアイリスちゃん。君しかいないと思ってる」


 ニコラスはそう言って静かに目を伏せた。


「前に竜人族は己自身を殺すことができないと教えたこと……覚えているか?」

「うん。そういう生き物だって、そう言ってたよね」


 五年前にしたアクセスとの会話を思い浮かべながら、わたしは答える。どうしてそれが今、関係あるのか分からないけど、何やら胸騒ぎがした。


「ずっと危うさは感じていたんだ。だけど、アイリスちゃんと出会って以降、大丈夫だって思っていた。だけど、本当は違っていたのかもしれない」

「ねぇ、どういうこと? 一体、どういう……」