ニコラスはわたし達を、森の奥深くへと誘った。家とは真逆の方向にある、初めて来る森だ。普段は空を飛んで移動するのに、森に入って以降はずっと徒歩。木漏れ日が優しくて、どこか気持ちが安らぐ雰囲気の場所。
 けれど、アクセスもニコラスも、移動中は一言も言葉を発しなかった。


「着いたよ」


 ニコラスはそう言って、唐突に足を止めた。木々に覆われた森の中、その一ヶ所だけ、ぽっかりと大きな穴が空いたように何も存在しない。


(話をするだけなら、何もこんな場所に連れてこなくても……)


 そう思っていた矢先、ニコラスがわたしには聞き取れない言葉で何かを唱えた。顔の前で恭しく手を合わせ、彼はゆっくりと静かに目を伏せる。その途端、眩い光が辺りを包み、わたしも思わず目を瞑った。

 次に目を開けた時、目の前に荘厳な建物があった。白と金を基調にした美しい建物で、一目で神殿だと分かる。森に入った時からどこか心が洗われる気がしていたけど、どうやらそれはこの建物の影響だったみたい。


「僕たち麟族の神殿だよ」


 ニコラスはそう言って微笑んだ。普段の軽快な雰囲気は何処へやら、今のニコラスはまるで、何年も修業を積んだ徳の高い御坊さんみたいだった。