「アイリスのウェディングドレス姿が見たい」


 旦那様がそう言うから、二人、教会と式の下見に行く。
 休日ということもあって、今日も一組のカップルが結婚式を挙げていた。
 フリルや刺繍があしらわれた真っ白なウエディングドレス。綺麗で、瞳が釘付けになる。花嫁さんはとても幸せそうな表情で笑っていて、花婿さんがそれを嬉しそうに見つめていた。


(良いなぁ)


 わたしがウエディングドレスを着たら、旦那様はあんな風に笑ってくれるだろうか。喜んでくれるだろうか。そう思っていたら、旦那様がわたしの手を強く握った。まるであの花婿さんみたいに幸せそうに笑う旦那様に、心がむず痒くなる。


「ドレス……一緒に選んでくれますか?」


 どうせなら旦那様が好きなドレスを身に着けたい。旦那様はニコリと微笑んで「もちろん」って言った。


(あれ?)


 その時、妙な違和感がわたしを襲う。


(わたし、きずな君と結婚式――――――挙げた、よね?)


 何故だろう。その辺りの記憶がひどく朧げだ。思い出そうと頑張っているのに、あまり効果がない。微かに残っているのは、打ち合わせの時に試着をしたドレスの記憶だ。
 だけどあの時、きずな君は仕事が忙しくて、母と一緒にフィッティングをした。そんな気がする。


「アイリス?」


 旦那様がわたしのことを心配そうに見つめる。どうやら相当、変な顔をしていたらしい。ブルブルと首を横に振りながら、わたしは笑った。


「何でもありません」


 わたし達は手を繋ぎ、腕を絡ませて歩く。
 幸せだった。この上なく幸せだった。

 だけどそれから数日後。わたしはこの胸騒ぎの理由を、身を以て知ることになった。