「だったら、そうしたら良かったのに。わたしがずっと、旦那様に触れたくて堪らないの、知ってたでしょう?」


 今度はわたしが旦那様に甘える番。胸に顔を埋め、スリスリすると、旦那様はクスクス声を上げて笑う。


「箍が外れると思ったんだよ」


 耳元でそんなことを囁かれて、腰が砕けそうになる。
 旦那様はわたしをそっと抱き支えつつ、大層艶やかな笑みを浮かべた。反則だ。


(寧ろ外れてしまえばよかったのに)


 そんな風に思いつつ、やっぱり思いとどまってくれて良かったのかもしれない、なんて思う。
 だって、少し前のわたしだったら、やっぱり受け止めきれなかった。心も身体も甘く蕩けて、日常生活なんて儘ならなかった気がする。

 チラリ、チラリと顔をあげると、旦那様は嬉しそうに、それから満足そうに笑う。
 その顔があまりにも嬉しそうで、わたしも一緒になって笑った。