「アイリス、こっちにおいで」


 そう言って旦那様は、わたしをソファに誘う。テーブルの上にはいつの間に用意したのか、真新しい涼やかな色合いのグラスが二つ。前世でいう琉球グラスみたいなガラスで出来たそれは、色違いのお揃いだった。


(夫婦茶碗みたい)


 そんなむず痒い気持ちを抱えつつ、わたしは旦那様の隣に腰掛ける。
 旦那様は微笑みながら、わたしの顔を覗き込んだ。


「――――色んなことがあったね」


 感慨深げな旦那様の声。頷きながら、胸の中がじわじわと温かくなり、次いで目頭が熱くなった。


「はい。この五年間、毎日ずっと……幸せでした。全部全部、旦那様のお蔭です」


 現世の父親と母親を亡くして、それからわたしは旦那様に出会った。
 本当だったらわたしは、あの時に死んでいたのかもしれない。旦那様がわたしを見つけてくれたから、今もわたしはここで生きている。こうして成人の日を迎えることが出来た。旦那様には感謝の気持ちしかない。


「――――知ってる? 俺にとってはアイリスの誕生日が、一年で一番大切な日なんだ」


 旦那様はそう言って目を細めた。時計の針が刻々と動く。
 旦那様は躊躇いがちに、わたしの頬に触れた。心臓がトクンと跳ねる。

 数日前には気づかなかったこと。旦那様の触れ方は、幼い日のそれとは違っていた。
 宝物みたいに大事にしてくれるのは今も昔も変わらない。それなのに、何かが違う。


(わたしが緊張してるから?)


 15歳を迎えたら、もう一度告白する。
 旦那様が大好きだってこと、結婚してほしいこと――――その想いを改めて伝えようと、ずっとずっと、そう決めてた。
 心臓がドキドキと鳴り響く。旦那様が大きく息を吸った。