「――――アイリス」

「うぁ、はい!」


 旦那様の呼びかけに、わたしは思わず身体を震わせる。おまけに変な声まで出てしまって、恥ずかしくて堪らない。
 すると、旦那様はそれまでの雰囲気はどこへやら、穏やかに微笑んで、コツンとおでこを重ね合わせた。


「これから数日、また少し帰りが遅くなるんだ。だけど……アイリスの誕生日は二人で一緒に迎えよう。俺に一番にお祝いさせてほしい。ダメかな?」


 思いがけない提案。わたしは目を丸くする。


「ダメなわけないです。わたしも、旦那様に一番にお祝いしてほしい」


 素直な気持ちを吐き出すと、旦那様は目を細めて笑った。

 夜空に浮かぶ星々がキラキラと瞬き、弧を描きながら流れて行く。風が頬を撫で、心を穏やかにする。

 結局、男心のことはちっとも分からなかった。
 けれど、これまで知らなかった旦那様の一面が垣間見えた気がする。前世とはまた違った、わたしの知らない旦那様が、まだまだたくさん存在するんだろう。


(もっとずっと、旦那様のことを知りたい)


 そんな風に思いながら、わたしは旦那様を抱き締めるのだった。