これからわたしは、二人なしで生きて行かなきゃいけないんだもん。旦那様の奥さんにならなきゃいけないし、どんなに薄情だとしても、ちゃんと前を向いてなきゃ。


「アイリス様、少し宜しいですか?」

「ロイ? どうしたの?」


 バスルームの外から遠慮がちに掛けられた声に、わたしは答える。


「外に新しい洋服を準備しています。上がられた際にはそちらをお召しになってください」

「本当⁉ ありがとう、ロイ!」


 一体いつの間に準備したのだろうと思いつつ、これで旦那様の前でみっともない格好をしないで済む。折角身を清めても、汚い服を着てはあまり意味がないなぁって思っていたから、物凄く嬉しかった。

 ロイが脱衣所からいなくなったころを見計らってバスルームを出る。するとそこには、お姫様が着るみたいな上品で可愛いらしい服が置いてあった。鮮やかな色合いの布地や繊細なフリルは、この世界の庶民にはとても手が出せない代物で。


(こういうの着てみたかったんだよねぇ)


 真新しい布とミントみたいな爽やかな香りがする洋服を抱き締めながら、わたしは笑った。