「あっ……あの、旦那様」

「ん?」


 わたしの問いかけに、旦那様は穏やかな笑みで答えた。旦那様の翼が月や星の光を集めて、キラキラと輝いて見える。あまりにも美しくて神秘的な光景。いつまでもいつまでも、眺めていたくなる程に神々しい。
 だけど、今のわたしには、それよりも重要な気がかりがあった。


「わたし、鳳族の羽、持ってきてますよ?」

「うん。知ってるよ」


 旦那様はそう言って笑みを深める。

 まるで宝物のように旦那様の腕に大事に抱かれ、わたしは夜空を飛んでいた。鳳族の羽で飛ぶ時よりずっと早く、旦那様は風を切って走る。まるでジェットコースターに乗ってるみたいなスピード感なのに、不思議と恐怖は全くない。寧ろ、大きな安心感に包まれていた。

 こんな風に旦那様と空を飛ぶのは、本当に久しぶりだった。そりゃぁ、触れるの自体が二年ぶりだし、当然なんだけど。
 でも、嬉しいのと同じぐらい、気恥ずかしさがわたしを襲う。


「俺に抱かれるのは嫌?」


 旦那様は少し掠れた声で、そんなことを尋ねる。
 その瞬間、皮膚がぶわっと粟だって、心臓が痛いほどに早鐘を打った。


(ワードのチョイスが宜しくないです、旦那様!)


 旦那様の胸に顔を押し付けながら、わたしは熱い吐息を噛み殺す。