「旦那様……」


 声がまだ上手く出せない。けれど、旦那様はわたしの声を聞き、優しく頷いてくれる。ちゃんと伝わっているんだなぁって、嬉しかった。


「良かった。アイリスが目を覚まさなかったら、俺は…………」


 ぎゅぅって音を立てて、旦那様がわたしを抱き締め直す。肩のあたりが旦那様の涙で湿っている。小刻みに震える身体を抱き返すと、旦那様はまた一層、腕に力を込めた。


「――――夢を見たんです」


 目を瞑る。きずな君の笑顔が目に浮かぶ。
 旦那様は何も言わない。黙ってわたしを抱き締めている。


「世界で一番、大好きな人の夢だったんです」


 未だわたしは、自分の気持ちを上手く整理できずにいる。

 きずな君に会えて嬉しかったこと。きずな君とさよならをして悲しかったこと。きずな君が生まれ変わってもまた、わたしと一緒になりたいって言ってくれたこと。それから旦那様が、わたしが目覚めたことを、こんなにも喜んでくれたこと。
 わたしだけの胸に収めておくことができなくて、その断片を言葉にする。


「そうか……」


 旦那様はそう言って、悲し気に目を細めた。わたしの頭を優しく撫で、まるで迷子の子どもみたいな表情を浮かべる。