「……逢璃は、俺が逢璃以外の人を愛するなんて、本当にそう思うの?」

「…………思うよ。だって、きずな君と旦那様は別の人間だもの」


 応えながら、胸がギュッと軋む。

 わたし――――『逢璃』と『アイリス』だってそう。魂が同じなだけで、別の人間だ。たとえ記憶を引き継いでいたとしても、絶対そう。
 だから、記憶のない旦那様は猶更、きずな君とは別の人間だ。


『アイリス』


 旦那様の声が木霊する。絶え間なく、わたしの名前を呼び続けるその声に、心が揺らぎ続ける。


「ねぇ、逢璃」


 きずな君はそう言ってわたしを優しく引き剥がした。アイリスに戻って、身長が低くなったわたしに合わせ、きずな君はそっと屈んでくれる。


「君の言う『旦那様』は、確かに俺とは別の人間なのかもしれない。だけどね、もしも生まれ変わったら……俺はまた逢璃を探すよ」


 きずな君の黒い瞳が、旦那様のエメラルドみたいな瞳とダブって見える。白銀のサラサラした髪の毛が靡いて、わたしの心を大きく揺さぶる。大好きな旦那様の姿が、きずな君の向こう、目の前に見えた。


『もしも生まれ変わったら、また一緒になろうね』


 前世でわたしがそう口にしたとき、きずな君は困ったように笑っていた。返事は無かったけど、わたしはそれを承諾の意味と捉えた。

 だけど、現世で旦那様に婚約者がいるって知って。きずな君は生まれ変わってまで、わたしと一緒にいたくなかったんだなって思った。全部わたしの勘違いだったんだって。

 だけど、もしもそうじゃないのだとしたら。