「逢璃」


 きずな君は笑っていた。今にも泣きそうな、けれど優しい眼差しで、わたしを見つめて笑っている。


「お別れの時間だ」

「そ、んな……」


 その瞬間、周りの景色が一気にぼやけ、真っ白な空間の中、わたし達は二人ぼっちになった。


『アイリス』


 遠くから旦那様の声が聞こえる。何度も何度も、わたしの名前を呼んでいる。
 その度に、今わたしが居るこの世界がぐわんと大きく揺れて、上に押し上げられている感覚がした。


「待って、きずな君!」


 行きたくない。離れたくない。
 きずな君は困ったような笑顔を浮かべ、わたしを思い切り抱き締める。
 だけどその時、気づいてしまった。きずな君の身体が、足の方から少しずつ透けて消え始めている。


『アイリス』


 旦那様の声が真っ白な世界に木霊する。涙が止め処なく溢れた。