その時、暗闇の中で声が聞こえた。その瞬間、身体の感覚が一気に戻ってきて、わたしはゆっくりと瞳を開ける。

 涙が頬を伝う。
 目の前で微笑む優しい笑顔。旦那様によく似てる――――けれど、髪も瞳も色素の薄い黒色だ。

 忘れられるはずがない。
 だって彼は。この人は。


「きずな君」


 懐かしの学生服。少し幼い顔をしたきずな君は、わたしの手を握り、首を傾げて笑っている。


「きずな君だ!」

「……どうしたの? 俺、何か変なこと言った?」


 間違いない。彼はわたしの旦那様――――ううん、まだ結婚していない頃だから恋人かな。
 前世の旦那様だった。

 きずな君はわたしの涙を拭いながら、よしよしって頭を撫でてくれる。そっと抱き寄せられて、きずな君の香りがして、涙がちっとも止まりそうにない。


「きずな君、会いたかった……!」


 わたしはきずな君を抱き締めて、それから思い切り泣きじゃくった。
 きずな君は戸惑いつつも、わたしを力強く抱き締めてくれる。幼子にするような優しい抱擁なんかじゃない。正真正銘、恋人同士の触れ合いだった。