(ロイは無事なのかな?)


 わたしはきっと、攫われてしまったのだろう。抵抗する暇もなかったし、誰が、何の目的でそうしたのかは分からない。
 けれど、ロイはわたしを助けようとしたはずだ。


(酷いことされてないと良いんだけど)


 そんな風に思いながら、わたしはギュッと目を瞑る。怖くて怖くて堪らなかった。


「――――辛かっただろう、お嬢さん」


 その時、まったく聞き覚えのない男の声が聞こえた。低くてよく響く、威厳に満ちた声音。身体から一気に血の気が引く感覚がした。


「あなたは、誰?」


 なけなしの勇気を振り絞って尋ねると、フッと嘲わらう声が聞こえた。どうやら答えてくれる気はないらしい。


「両親を亡くしたんだってね。けれど、もう大丈夫。これからは君を苦しめるものは何もない」


 怖い。心臓がドクンと鳴り響く。身を捩り、見えない魔の手から逃れようとする。
 けれどその瞬間、大きな手のひらがわたしの目を覆ったのが分かった。