旦那様は庁舎の出口までわたし達を見送ってくれた。


「気を付けて帰るんだよ」


 鳳族の翼を付けたわたしへ、旦那様は何度もそう言い聞かせる。


「大丈夫ですよ。ちゃんと旦那様が下さったお守りも持っていますし」


 胸元にいつも、旦那様が下さったお守りを持ち歩いている。すると、旦那様は目を細めつつ、わたしの頭をポンポンと撫でてくれた。


「今夜……は無理かもしれないけど、明日にはきっと帰れるから」


 困ったような笑顔。ズキンと、少しだけ胸が軋む。


(今夜……はミモザさんと会うのかな)


 だけど、旦那様がミモザさんと会っていたって関係ない。旦那様が帰る場所は『わたしの待つ家』だもん。
 だからわたしは、目一杯お家を綺麗にして、温かくして、旦那様のお帰りを待つ。帰りたいって思える家を作りたいって思う。


「お待ちしてます、旦那様」


 精一杯の笑顔。旦那様も優しく微笑み返してくれる。

 だけどその日。わたしは旦那様との約束を守ることができなかった。